ここまで3回に渡って、5月施行の会社法改正の中小企業に対する影響について説明してきましたが、今回が最後となります。
4回目は、「多重代表訴訟」を取り上げます。
多重代表訴訟は、親子会社間のガバナンスを強化するものです。
子会社に損害が生じたことから親会社に損害が生じた場合、本来、親会社(子会社の株主)が主体となって責任追及すべきです。
しかし、親会社の役員と子会社の役員との間でうやむやになることもあります。
そこで、親会社の株主が、子会社の取締役の責任を追及して訴訟を提起できることにしました。
中小企業であっても、中堅程度の規模を有し、複数の会社からなるグループ経営をしているところは少なくありません。
グループ企業の取締役は、多重代表訴訟を提起されるリスクを意識しておく必要があります。
子会社の社長といっても、その実態は、親会社の一部門の責任者に過ぎず、経営は親会社のいわれる通りのケースもあるでしょう。
そうした場合でも、親会社の株主から、思いもかけず、経営責任を問われる可能性があるのです。
もっとも、通常の株主代表訴訟よりも、要件は厳しくなっています。
全ての親子会社が対象ではなく、親会社が有する子会社の帳簿価額が親会社の純資産の5分の1を超える場合に限られます。
つまり、親会社にとって、重要な子会社に限定したわけです。
また、訴訟提起できる株主は、親会社の株式を1%以上保有する株主です。
不正な利益を図る目的を有する場合、親会社に損害が生じていない場合には、訴えを提起できないと規定されています。
改正法は、グループ経営を不当に委縮させないために、厳しい要件を加えたと言われています。
確かに、上場企業では1%を保有する株主は大株主ですから、濫用されるおそれは小さいかもしれません。
しかし、中小企業の場合、改正法が規定する要件をクリアするケースは、結構あるのではないかと思います。
グループ企業の取締役になられる方は、多重代表訴訟の対象になるかどうかを、事前に検討しておくとよいでしょう。