〇 平成27年2月26日の最高裁判決
「大阪市の水族館『海遊館』の男性管理職2人による女性派遣社員へのセクハラ発言をめぐり、会社側が警告せず出勤停止とした懲戒処分が重すぎるかが争われた訴訟の上告審判決が26日、最高裁であった。第1小法廷(金築誠志裁判長)は判決理由で『会社内でセクハラ禁止は周知されており、処分は重すぎない』として、処分を無効とした二審・大阪高裁判決を取り消した。」 日本経済新聞2015年2月27日
判決文は、最高裁のホームページに掲載されています。http://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/883/084883_hanrei.pdf
判決の最後には男性2名のセクハラ発言が生々しく挙げられています。
本コラムでは2回に分けて、企業がセクハラ対策を考えるうえで参考となる点を2つ取り上げます。
第1回は、セクハラ防止策への取り組み方です。
〇 警告なしの出勤停止処分の是非
本件では、事前の警告や戒告を行わず、いきなり出勤停止処分となっています。
この会社の就業規則では、出勤停止処分は、懲戒解雇に次いで重い処分です。
加えて、この上司は、課長代理級から降格となり、給与も減額となりました。
結果からみれば、相当に重い処分です。
確かに、この上司は部下の女性(派遣社員)に対して、1年間で複数回、性的な言動を繰り返していました。
しかし、従来の裁判例を踏まえれば、処分は段階を踏んで行うことが必要でした。
最初は厳重注意に始まり、懲戒処分を行う段階でも最初は戒告からです。
〇 事前のセクハラ防止策を徹底すること
本件で最高裁が警告なしの出勤停止処分を適法とした理由の1つに、この会社が事前のセクハラ対策を徹底させていたことがあります。
まず、会社は重要課題として、職場におけるセクハラ防止を挙げていました。
その背景には、従業員の過半数が女性、来館者(水族館)の6割が女性ということがあります。
その上で、従業員には、セクハラ防止の研修への毎年の参加が義務付けられました。
また、「セクシュアルハラスメントは許しません!!」という文書(セクハラ禁止文書)が配布され、職場でも掲示されていました。
この文書には、禁止行為が具体的に列挙されています。
最高裁は、こうした会社の取り組みを挙げて、事前に警告がなくても、セクハラをすることで重い懲戒処分を受けることは認識できたはずだ、としました。
サッカーでいえば、イエローカードを出すまでもなく、レッドカードでも仕方ない、ということです(注意:解雇ではないです)。
また、彼らは管理職の地位にありました。
本来ならばセクハラを防ぐべき立場であるのに、自らセクハラを働いたことで、企業秩序に悪影響を与えています。
〇 最高裁の判決からの教訓
企業はセクハラ対策に本気で取り組むことが要求されていることが分かります。
他方、きちんと対策を講じておれば、その実効性を担保するために、本件のような重い懲戒処分を即座に出すことも許されることが明らかになりました。
ただ、本件で残念なことがあります。
女性社員のうち1人は、この件が理由で辞めていることです。
この女性は、1年の間、密室で性的発言を受けました。
判決には、派遣元と会社の板挟みにも悩んだともあります。
職場での風通しがよければ他の上司に相談できたかもしれません。
また、外部の相談窓口の制度を活用することで、もっと早くに解決する方法があったと思われます。
次回は、セクハラの判定方法について説明します。